「生きること」と「働くこと」

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 毎日8時間労働。周りも同じように正社員として働いている。あっという間に日々が過ぎ去っていくけれど、自分の人生って何なんだろうか。何のために働いているのだろうか。この先もずっと何となく「これでいいのか」という思いを抱えたまま生きていくんだろうか。

 こんなふうに思ったことはありませんか?働くことが辛いと感じている人もいれば、特に不満もないけれど何となくこんな生き方でいいのかとモヤモヤしている人もいるのではないでしょうか。

 そんな思いをお持ちの方に今回お勧めしたい本がナカムラケンタさんの『生きるように働く』
 この本は、「日本仕事百貨店」という求人広告会社の代表を務めるナカムラさんが、実際に様々な職場に足を運び、そこで働く人々の仕事の経緯や仕事内容、想いなどを聞き取ったものです。そして、そのインタビューを通してナカムラさん自身も自分のこれまでの経験を振り返りながら気づき、考えている様子も描かれています。

 この記事を読むことで、『生きるように働く』がどのような本なのか、自分の「生き方」「働き方」をもう一度考え直すヒントを得られると思います。

こんな人に読んでほしい!

  • 仕事が辛いと感じている人
  • なんとなく現状に満足していない人
  • 自分の人生や生き方に悩んでいる人

1.書籍情報

参照:ナカムラケンタ『生きるように働く』

 今回紹介する『生きるように働く』は、ナカムラケンタさんの作品で2018年に出版されました。
 ナカムラケンタさんは「日本仕事百貨」という求人広告サイトを運営する会社(株式会社シゴトヒト)の代表取締役を務めています。
 1979年、東京都生まれで大学院の建築学科を終了されています。その後不動産会社に入社しますが「居心地のいい場所には「人」が欠かせない」と気づき退職。2008年に”生きるように働く人の求人サイト”「東京仕事百貨」を立ち上げました。2009年には株式会社シゴトヒトを設立。2012年、サイト名を「日本仕事百貨」に変更しています。
 ナカムラさんの運営する求人サイトに興味のある方はぜひ一度覗いてみてください。

あらすじ

毎月10万人が閲覧する、求人サイト「日本仕事百貨」を運営する著者、初の著書。
植物にとって、生きると働くが分かれていないように、私たちにもオンオフのない時間が流れている――著者自身、そして求人の取材で出会った人たちが、芽を出し、枝を伸ばして、一本の木になっていくまでの話。

ぼくは「日本仕事百貨」という求人サイトを運営している。職場を訪ねてインタビューし、それを求人の記事にまとめる。大切にしているのが、仕事のあるがままを伝えること。(略)求人というと、募集要項がメインとなることも多い。もちろん、福利厚生や給料だって、大切なこと。けれどそれだってひとつの枝葉に過ぎないんじゃないか。それよりも根っこに共感できるか。こちらのほうが大切なんじゃないか。
参照<生きるように働く | ナカムラケンタ |本 | 通販 | Amazon

 この本は、ナカムラさんが実際に職場へ足をはこび、そこで働く人々へのインタビューした内容が取り扱われています。。一人一人の働き方や大切にしている想いに触れ、ナカムラさん自身も気づき考える様子が描かれます。

2.読むきっかけ

 「目標?特にないなぁ…」「毎日仕事こなすので精一杯で、先のこと考える余裕なんかないよ」

 不安と期待が混じりながらも新卒として入社して間もなくの頃でした。上記の言葉は、出来ないこと・覚えることが山ほどあり毎日必死に働く日々を送っていたある日「先輩って将来こうなりたいっていう目標とかありますか?」と聞いたときに返ってきた答えでした。
 また、先輩と話をしている中で「(新卒の)今の時期くらいしか帰ってご飯作ることできないもんね」と言われたことも。この言葉を聞き、衝撃を受けました。将来、自分のためにご飯をつくる時間・余裕もない日々が待っているのか。

 仕事が辛いのは当たり前なのだろうか。先輩の顔を見ても楽しくなさそうで、毎日残業でとても大変そう。将来自分もこうなるかもしれないと思ったとき、不安と絶望の気持ちになったことを今でも覚えています。
 そもそも「仕事」と「プライベート」ってきっちり切り離すべきものなのか?給料や福利厚生といった条件面ももちろん大切かもしれないけれど、そもそも「条件」で選ぶから長続きしなかったり働いていてしんどい気持ちになるのではないだろうか?条件で仕事を選ぶ、仕事とプライベートを完全に切り分けるとかではなく、もっと自分の大切にしたいものを大切にしながら生きていく方法はないのか。仕事と生活がゆるやかに心地よくつながるような、そんな生き方って出来ないのか
 そんなふうに疑問を持ったことや、適応障害になって「自分が幸せだ」と思えるような働き方・生き方を考えたいと思い、この本を手に取りました。

3.ここが魅力!

 ここからは、私が本書を読んで特に魅力に感じた点を3つお伝えします。

①日々の違和感=自分の価値観

 ひとつめは、自分が日々感じている違和感は、自分価値観と重なる部分があるという事です。
 例えば、著者のナカムラさんは建築学科で学んだにもかかわらず建築家以外の何かを模索していたそうです。その理由の一つが「こんなに建物があふれているのに、これ以上新築しても仕方がないんじゃないか」と思ったから[ナカムラ2018:18]。
 また、日本の素材を活かしたアパレルブランド「群言堂ぐんげんどう」の松場さんの以下の言葉にも共感しました。

「今は無駄なものを大量につくって、大量に安く売って。それを消費していくこと煽っている。私の友人のデザイナーも、デザイナーという仕事はそもそも人を幸せにする職業だったのに、今や経済を加速する職業に変わってしまった、と言うんです」
参照[ナカムラ2018:146-147]

  私はあまり物欲が強い方ではないため高い買い物も頻繁にものを買うことも少ないです。ですが、InstagramやYoutubeで大量に物を購入・紹介している投稿をみることはあります。その度に、その多すぎる情報に嫌気がさしたり「そもそもそんなに物を買う必要はあるのか?」「買ったものはその後どうなるんだろう」とモヤモヤします。(紹介・発信することをお仕事にしている人もいらっしゃるので、決してその仕事を否定しているわけではありません。)

 この本を通して働き方や価値観に触れたことで、自分は「ものにあふれているのだから新しくつくるよりも今あるものを活かすことが重要なのではないか?」「大量生産・大量消費ではなく、長く大切に使えるものをつくること、使う方が良いのではないかという価値観を持っていることに気づきました。そして、その価値観の根底には「自分が本当に良いと思ったものを自分で判断する」という「こだわり」を大切にしたいという思いがあるのではないかと考えました。

②人生は一本道じゃない

 魅力の2つ目は、「人生は一本道じゃない」ことに気づき、前向きな気持ちになれることです。

 著者のナカムラさんは会社を辞めて独立しようと思い立ちますが、サラリーマンを続けて安定した人生を送るのか、後悔しないために一歩踏み出すのかといった思いに揺れ動きます。気持ちでは「独立したい!」と思いつつも将来の不透明さに怖気づいてしまうんです。最終的には独立する道を選び、会社を退職されます。
 その他にも、本書には新卒半年ほどで会社を辞めてカフェを経営している方、硝子店で勤務する元パン屋の従業員の方などいわゆる「新卒からずっと同じ会社に勤める」という生き方ではない人のインタビュー記事も記載されています。

 私は本書を読んだ当初は仕事を辞めるかどうかで悩み、仕事を辞めた今、何をしようかどんなことがしてみたいか考えながら再びこの本を手に取っています。辞めてから改めて読むと、本に出てくる人々が当時決断をする上でかなり悩んだんだろうな、こんなことを考えてたんじゃないかなとより自分事として読めてきます。

 いろんな生き方がある。それは頭ではわかっているが実感はわかない。そんな方に一読してもらい、自分と似たような価値観・進路を持った方のインタビューを深く読んでみたり、本の登場人物が自分だったらと気持ちをぐっと近づけて読み、人生の選択肢について一度考えてみてほしいです。

③自分の中の「種」を育てる

 最後は「自分の中の「種」を育てる」です。
 まず本書の章立てを見てみると「種を植え、芽が出て、幹を伸ばし、枝葉を伸ばし、森になる」と徐徐々に種が成長していく構成になっています。ここから生きるように働く」とは自分の中の種を育てていくことであることが読み取れます。すなわち、自分の大切にしている「価値観」という名の「種」をみつけ、一生をかけて育てていくこと。その枝葉は一見バラバラに見えるかもしれないけれど、すべてはひとつの根っこへとつながっている。つまり表面に見えるものはすべて根っこにある一番大切な価値観・思いから派生したものなのです。

 そうなると「種」の存在がとても重要になってきます。ですが現実ではそう簡単に「種」は見つかりません。私自身、大学では「一生をかけてやりたいと思えるものを見つけるぞ!」という気持ちを持っていました。しかし数年が経った今それは見つかっていません。ですが、学び、人と出会い話をしたことで「興味の種」のようなものは見つかった気がします。また、適応障害後に自分自身の振り返りや考える時間を設けたことで、「これは大切にしたい」と思える価値観も少しずつ見えてきました。これらが私の「種」と言えるものだと思っています。「種」探しは時間がかる、とのんびりかまえておくくらいがよいかもしれません。
 
 仮に「種」を見つけたとしても育てていくのもまた一苦労でしょう。水や肥料を与え、時に自然災害も耐え抜く必要があります。

 この本を通して、そして自身の違和感を掘り下げていくことで私は「いろんな生き方を知ること・発信すること・選び取ること」が自分の興味のひとつだと考えました。正社員だろうが契約社員だろうがアルバイトだろうが、その人が幸せでその人の中にある「種」を育てていけているのならそれでいいじゃないか。そう思う気持ちもあります。
 そんな思いを大切にしたい。自分自身もどんな形であれ大切な価値観を軸に生きていきたいと思っています。ですが、実際に仕事を辞めしばらくアルバイトをしながら生活すると決めたた時、仕事を探していく中でどうしても雇用形態や仕事内容に対する一種の優劣のようなものが頭をよぎってしまいます。
 正社員、契約社員、パート、アルバイト…。営業、販売、技術職…。「どんな仕事にも優劣はない」といいつつも私たちは雇用形態や職種によって無意識的に「優劣」をつけがちだと思います。もちろん、高度な知識や技術、経験が必要な職種もあります。ですがそれは必ずしも優劣とイコールではないはずです。

 もっといろんな働き方・生き方があってもいいんじゃないか。そして、仮に「一般的」といわれる正社員以外の選択肢を選んだ時の周囲からの目線やどう思われているかということは気にしなくてもいいんじゃないか。
 そこに必要なのは、「自分は何を大切に生きていきたいか」というぶれない根っこではないかと思います。生きることは、自分の中の種を一生かけて育てていくこと。その中で人生の大半を占める仕事は種を育てていくうえで大きなパーセンテージを占めるものです。
 もし自分の生き方・働き方に違和感や「これでいいのか?」という気持ちが少しでもあるのならば、この本を通してナカムラさんと一緒にいろんな「生き方・働き方」をする人の話を聴いてみてほしいと思います。

 「当たり前」とされている生き方に生きづらさを感じている人、本気で自分の生き方に向き合いたい人にぜひ読んでほしい一冊です。

4.読みやすさ

 最後にこちらの本の読みやすさについて。
 こちらは240ページの本となっています。そこまで分厚さもなく、中身も話が細かく分かれているので少しずつ読み進めることも可能です。
 内容としてはインタビュー先の職場の描写やインタビュー内容、著者が感じ考えたことが書かれているので読みやすいと思います。
 自己啓発本のように「これが正しい生き方・働き方です」とひとつの答えを提示するものではありません。実際に読んでみて何をどう感じるか、自分はどうしたいかと向き合いながら自分なりの答えを探していく一冊になっています。

まとめ

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